昨日Twitterでこんなものを見つけた。
今年、純文学の新人賞獲ってデビューした大田ステファニー観人氏の受賞の言葉がヤバすぎる。 pic.twitter.com/6upalCliE4
— 寝寝 (@nene_CyberHippi) 2023年12月13日
私は小説はほとんど読まないものの、あまりに異端だというのは流石に分かる。でも、言葉遣いがめちゃくちゃなのになんかテンポが良くてスルスル読めてしまったのが気になって、検索をかけてみたら、こんな記事が出てきた。
すばる文学賞・大田ステファニー歓人さん 1文字も書かないで「概念小説家」やってました 連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」#6|好書好日 (asahi.com)
読んでみて、彼が偶然でなく成功出来たのだろうということが腑に落ちたので、紹介を兼ねてメモをしておくことにした。
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まず、小説を書き出す前の話。
- 小説を読むようになったのは、中学生になり、学校にあまり行かなくなってから。しかし当時は映画と音楽に夢中で、小説はその合間に読む程度。
- 映画大学に入り、評論コースを選択。卒論で最優秀賞を受賞。
ちゃんと小説を読んできているし、他分野の学びと経験も積んできている。有名な図書「ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代」で、「異なる分野で培った経験や知識が斬新なアイデアを与える」ということが指摘されていたのを思い出す。あと卒論で最優秀賞獲れるのがまず凄い…。
そして以降。
- 進路に小説家を挙げたが、それは本気で小説を書きたいというより、好きじゃない仕事をしていても「自分は小説家だから」と思える安心材料としてだった。
- 1文字も書かずに「概念小説家」として2~3年過ごす。
照明のバイトや映像会社の仕事で食いつなぐうちに、そっちが楽しくなると、「小説家」なのにこれではいけないと、二つとも辞めてクリエイティブとは関係ない営業職へ転職した。まったく興味の持てない仕事で不満ばかりだった。その分、小説で憂さを晴らそうと思い、やっと書き始め、第1作を推敲をしないまま群像新人文学賞に応募。
これは結局落ちたものの、この仕事の変更の判断がすごい。小説を書く為の正解を選んだという感じだ。
その後は、「仕事で約2ヵ月全国を回り、家に戻ってからは書くよりもまず人生を楽しむことにした」とのことで。
まず人生を豊かにして、そこからこぼれてくるフレッシュなものを真空パックにしてお届けするほうがいいんだって思ったっす
(具体的に何をしたかというと)
友達には親切にして、親には子どものときに伝えられなかった感謝を伝えて、あ、その頃に彼女と同棲を始めたんですよ。それで料理をめっちゃするようになったり、ぬいぐるみとかネイルとか可愛いものの大事さを知ったり、前は食えりゃなんでもよかったんで紙皿使ってたんすけど、彼女は骨董の器とか持ってて、そういうのいいなって思ったり。今までの自分になかったセンスが芽生えました
…ねえ、純真過ぎない?まず人生を豊かに!という発想はよくあるけど、その方法が遊びまわるとかでなく、些細で、でもとても大事なことばかり。そうか、豊かってこういうことだよな…。貼られている「家で書く時の魔法陣」も良い。もう好きになっちゃった。
もう一つ、漫画を描く自分に刺さったのがこの部分。
小説って、プロット、構成、文体、セリフっていろんな武器があるけど、それよりそれぞれの要素の制御をするセンスのほうが大事。センスって誰かと比べてつまんないか面白くないかじゃなくて、ただ強度の問題じゃないすか。どんな人だってそれぞれ自分にしか書けないものがある。自分のセンスを弱くしか出せなければ人と似ちゃうし、強く出せれば人と比べても個性が出る
これは何かを書いたり作ったりする人に自信を持たせてくれる考え方だ…。
作品の具体的な書き方にも触れているが、予想以上にロジカルで考え抜かれていて勉強になる。受賞コメントの妙な読みやすさの理由はこれかぁ。
更にその後に続く発言も、とても見習いたい(というか身につまされる…)と思った。
(なぜ受賞したと思うか?)
書いたものより、書く前の段階で編み出した〝作家の美学〟みたいなものに個性があったんじゃないかな。ひきこもって書いてたらこうなってない。書く準備を、書く以外のことでしてたんです
(小説家になりたい人へのアドバイス→自分を大切にする)
自分を大事にしたら他人のことも大事にするし、そうやって人と関わってないと小説って書けない気がする。あと、書けないときも、自分に優しくしてたら、〝未来の自分が何とかしてくれるはず〟って安心して眠れます
あらためてコメントを読み返すと、実直で天真爛漫な方だなあと思えてくる。
これは絶対読みたいな。Kindle版の予約を心待ちにしています。